北横岳、入笠山 登山
現代詩2023
サロメの森 I
森の奥から小川が流れている
流れに沿って山道をのぼり
丸木橋を渡ると葦原に出る
サロメの森だ
待ちに待った春になり
太陽の恵みを受けて輝く森
萌黄色の絨毯が広がっている
ヴィークック ヴィークック
茂みの中は野鳥の楽園
かぐわしい花の香よ
木苺は赤く熟れている
イチゴを摘むと
葦の原からハープの音色
つま弾く妖精亜麻色髪
微笑みが私を誘い葦原へ
手に手を取って風に乗り
峰の上までひとっ飛び
雲に戯れダンスはつづく
冷たい風が頬を打つ
まどろむ瞳に射す夕日
頭上の梢激しくゆれて
サロメの笑いが風になる
ハープの旋律消えていく
ピーロッロ ピーロッロ
野鳥は帰る茂みのねぐら
ピーロッロ ピーロッロ
Oh my God
ロシア予備役徴集
若者が追いかけられ
殴られ 蹴とばされ
連行され 戦場へ
そして狂人の為に墓場へ
Oh my God
その昔 夕やみ迫る神宮外苑から
横一列十人でスクラムを組み
暗くなった青山通りを国会議事堂に
道の両側には盾を構えた機動隊がビッシリ
盾の塀の中をフランスデモで行進
議事堂が近づくにつれ
ジグザグ行進のピッチは
速まり左右に激しく蛇行
暗闇にサーチライトのビームが交錯
安保反対 安保反対
シュピレヒコールは甲高くとどろき
スピーカーがガナリ騒然とし
デモ隊で道はあふれ
革命前夜の様相となった
その夜 国会突入の女子学生が死亡した
Oh my God
しかし
安保条約は可決 軍備拡大に向かった
歴史は戦争を積み上げてきた
太平洋戦争
ベトナム戦争
そしてウクライナ
これからも続く
いずれ核弾頭の釦が押される日がくるのか
Oh my God
天国
ムカシ ムカシ
子どもの頃 見た絵本に
天国の絵が あった
川にはラムネが流れ
岸にはアメ お菓子がいっぱい
木にはパンが吊り下がっていた
天国はいいなーと思った
チョウ・ミツバチの飛ぶ
庭のテーブルで新聞を読みながら
あの絵本を思い出し
今は天国のようだと思った
トオイ トオイ
ウクライナの女性が
子どもがお腹をすかしても
あげるものがないと涙を流していた
彼女にも
この世の天国が
早く来ますように
ひとりっ子
隣の家には 弟より一つ年下の
ひとりっこがいた
きれいな洋服を着て
大事に育てられていた
ひとりっこはいいなあーと思った
ボクは 3人兄弟の真ん中
いつも兄にいじめられていた
弟は母に可愛がられていた
小学3年の頃
隣のおばさんが弟にバナナを1本くれた
ボクは まだ バナナを食べたことがなかった
弟は皮をむき 食べ始めた
ボクは 弟が食べるのを見ていた
弟は食べ終わると皮を畳にすてた
ボクは皮を拾って皮の内側をかじったよ
一生懸命勉強して
一生懸命働いて時が経ち
私は 家庭を持った
娘が4歳の時 家族3人でおばさんの家に行った
おばさんは 私達をみて
子どもはひとりだけなの と言った
おばさんはね もっと子どもを欲しかった
でも 出来なかったのよ と言った
次の年 我が家に男の子が生まれた
一生懸命働いて
一生懸命ローンを返して時が経ち
わしは おじいちゃんになった
いま わしは 息子のマンションに行くのが楽しみだ
男の子と女の子の孫が
おじいちゃんと言ってくれる
わしは セッセと孫の写真を撮っている
谷川岳 一の倉沢
曲がりくねった広葉樹林の道
キラキラとした渓谷の流れ
山また山をクルマは行く
クルマを降りて林道を登る
クマに注意の貼り紙
紅葉の茂みを見まわし再び進む
渓流がゴウゴウと響く
一の倉沢にたどり着いた
切り立った岩山の頂上は雲が速く飛んでいた
川原に沿って進むと登山口
かって多くの若者がここを通って
ある人は還らぬ人となった
その数 800人を超す
ぐい吞みを大きな岩に置き
日本酒を注いだ
岩稜に数えきれない顔が覗く
青春真っ盛りの若さで
一瞬で逝った彼らは
どんなことが頭によぎったのだろうか
都会に残された恋人は
どう納得したのだろうか
お彼岸
コスモスが咲き始めた
秋晴れの日
クルマで公園墓地へ墓参りに行った
戦争を体験した明治生まれの父
3人の子どもを育てた大正生まれの母が
眠っている
お花 ビール お菓子を供え
焼香した
5歳の頃 夜行列車で田舎へ行った
明け方停まった駅で
父に抱っこされて汽車の窓から
オシッコをしたのを思い出した
線路の向こうで男の人が見ていた
優しかった父の面影が浮かんだ
線香の煙が青い空に
ユラユラ昇っていく
人間は誰でも最後には死ぬのだ
エリザベス女王もみまかわれた
臨終のきわにどんなことが
頭によぎるのだろう
満ち足りた 安らかな気持ちで
逝ければ本望だろう
ヒグラシ
赤い夕陽が梢にかかるころ
シダの茂った杉林には
シクシク カナカナ
ヒグラシが鳴いている
遠くの方から シクシク
近くの幹から カナカナ
ヒグラシの輪唱が谷戸にこだましている
まもなく消える命を嘆いているようだ
人の世の老後は長い
しかし
楽しい時は少なく
侘しい時が多い
シクシク カナカナ
赤い川の谷間
暗い大地に黄色いドームのように浮かぶ
浦東に最終便は降下した
中東からの乗客が多い入国ゲートは満杯だった
ハイウェイを上海へ突っ走った
窓のはるか下に汽船が進む黄浦江が
墨絵のようにゆったりと流れている
ジプシー女の唄う赤い川の谷間がマッチしている
ほろ酔いで街に下りる
ドアを入るとビームが回り音楽がガンガン響いている
新天地のディスコ
富を得た若者達が踊っている
人ごみをかき分けていると左手を捕まれた
キナクリドンアイシャドウの女が近づいてきた
瞳の奥に鎌首の舌を揺らしながら笑っている
危ないよと右手を引っ張られ店を出た
ビルの通りは霧が立ちこめ静寂だ
かって革命闘士が暗躍
息を潜めたフランス租界
暗闇の奥に彼らの気配が漂う
今の状態をどう感じているのだろうか
霧を割ってライトが近づく
車が停まりトビラが開いた
枯 れ 葉
寒さが増すと枯れ葉が舞い始め
風が強く吹くと群れをなして散る
春の芽吹きから太陽の恵み
光合成で大木を育てた葉っぱたちは
枝から別れ自由を得てうれしそうだ
ヒラヒラ踊りながらおちるもの
クルクル公園を駈け廻るもの
幹の根元に集まるもの
人の世もこれに似たり
世の中 自由と言えど
子どもの頃は学校で集団行動
社会人になって組織にしばられ
我慢の人生を強いられている
会社発展に尽くした企業戦士は
定年で職場を離れ自由を得る
趣味の世界を楽しむ者
アクティブに旅行する者
静かに余生を送る者
嫌われても組織に居座る者
イロイロな送り方がある
いつまでもアグレッシブに生きたいものだ
白 い 雲
葉っぱの散った梢の先が天に向かっている
空はどこまでも青く澄み切っている
白い雲が南へ流れている
別の方向から白い雲が東に流れている
二つの雲が重なった
どっちに行くのかな
雲は向きを変えなかった
二つの雲は高度が違っていたので
ぶつからなかったのだ
のどかに流れる雲はいい
しかし 雷雲はこわい
竜巻になるとおそろしい
人間も様々ある
静かに本をよんだりコーヒーを飲んで過ごす人
いつも何かに不平を言う人
人を騙す詐欺をする人
戦争をするリーダーもいる
罪を犯す人が出ないような
社会になるといいなあ
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